商業イラストでAffinity Photoを活用。i-mixsさんの場合。

5.0
Affinity Photoの活用事例 Affinity

商業案件におけるAffinity活用事例をご紹介するこの企画。
第1弾の大嶺さん第2弾の生田東高校さんとも、とても大きな反響をいただいています。
この一連の記事を通して、Affinityシリーズが趣味だけにとどまらず、大小さまざまな商業案件や教育現場でも幅広く活用されはじめており、十分な実績を残せるツールであることを、これから購入しようと思っている皆さんにお伝えできればと思っています。
せっかく買うんだから、ちゃんと活用してもらった方が良いですからね。

ところで第1弾も第2弾も、Affinity Designerを取り上げた内容でした。
Affinityシリーズでの一番人気は、もちろんAffinity Designerです。Affinity Photoが10本売れるうちに、Affinity Designerは15〜16本売れるくらいの感じです。なのでAffinity Designerの記事が集まるのはもちろん喜ばしいのですが、実は個人的にはAffinity Photoが好きなんですよねぇ……というわけで、Affinity Photoユーザさんで商業案件に活用している方がいないかなぁ、、と捜していたら、イラストレーターのi-mixsさんがAffinity Photoを活用しているという噂を聞きつけ、早速お話をお伺いしてきました。

i-mixsさんは、ゲームのキャラクターデザインや電子書籍の表紙イラストなどを手掛けているイラストレーターさんです。
フロンティアワークスさんの「クリエイティブRPG」のダークレオパードマンのデザインを手がけたり、フリージア文庫さんの「きみは盗人猛々しい」という作品において表紙イラストを手がけています。一般企業のイラスト依頼も積極的に引き受けているそうで、暑中見舞いやお得意さま向けの手紙の挿絵などもこなしており、商業案件の経験豊富な絵師さんです。

商業イラストでAffinity Photoを活用。i-mixsさんの場合。

イラスト制作において、Affinity Photoをどのように使っているのか。

Affinity Photo 商用利用

i-mixsさん

普段、私は主にネットゲーム数社様にてキャラクターイラストを描かせていただいております。
キャラクターイラストの主な作成については、セルシスのCLIP STUDIO PAINTというイラストレーターや漫画家の方たちの中ではメジャーなペイントツールを用いております。

私はイラストを描く際は会社様へ納品するサイズよりも実際は大きなサイズで描き、完成したものを縮小して納品しております。
これは大きなサイズにすることで細かな表現が可能になり、仮に縮小したとしても等倍で描くよりもクオリティが高い結果となるため行っています。

また、この縮小の作業についてはCLIP STUDIO PAINTでも行えますが、同じ縮小(リサイズ)のアルゴリズムといっても用いるアプリによって微妙に結果が異なりますため、私はその中でも結果が一番好ましいPhotoshopで等倍で描いたキャラクターイラストを開き、縮小を行うということをこれまで行ってきました。

Affinity Photoを使うようになったのは、同ソフトの試用版を使ってみたところ、この縮小の結果が個人的に好ましいものになったのがきっかけです。 また、ネット上以外の紙媒体で印刷されるイラストにおいてはCMYKへ変換する必要がありますため、Affinity PhotoでCMYKへ変換できることはとても魅力的でした。

出番としては作業の一部だとしても、作品作りでは欠かせない点のため、その一点を担うアプリとして現在Affinity Photoは欠かせないものとなっています。

セルシスさんのCLIP STUDIO PAINTは、i-mixsさんの仰るように、マンガやキャラクターイラストの世界では大変普及しているツールです。
なかなか歴史の長いツールですが、昔は特にマンガ家さんは手描きが基本だったので、パソコンを使った作業への忌避感が強く、随分展開に苦労した時期が長かった印象があります。それでも同人作家さんの導入をきっかけに少しずつプロの間でも利用が進んでいき、現在はかなり広く利用されていると聞いています。

さすがにAffinity Photoで作画はないと思いましたが、リサイズと色変換のためにAffinity Photoを使うというのは、なるほどなぁ、そういう需要もあるのか……と少し驚きでした。

リサイズ作業では「ドキュメンのサイズを変更」で実行されるんですか?
リサンプルはどの辺りを選ばれていますか?

i-mixsさん

その方法もありますが、エクスポートから縮小を行っています。
基本はPNGへ縮小を行っており、この画像のように「Lanczos 3分離可能」で行っています。

リサンプルは、画質に結構影響してきます。
Affinity Photoの場合、以下の5種類が用意されています。

ニアレストネイバー(最近傍)そのまま拡大・縮小。ファイルサイズは小さいが画質が悪い。
バイリニア周囲4つの色の平均値を求めて補完。ちょっと滑らか。
バイキュービック周辺の4×4画素の輝度値を用いて計算する。滑らかだがボケ強め。
Lanczos 3分離可能周辺の6×6画素を用いて補完。仕上がりが滑らか。
Lanczos 3分離不可周辺の6×6画素を用いて補完。シャープな仕上がり。

バイキュービック法などはPhotoshopでもメジャーなリサンプルですが、Lanczos 3はより精度の高いリサンプル法になります。バイキュービックのボケ強めな感じが軽減されたような感じで、たぶん多くの人にとって画質で選ぶなら、このLanczos 3分離可能がベストチョイスだと思います。

i-mixsさん

CMYK変換は、メニューの「ドキュメント」から「フォーマット / ICCプロファイルを変換」から行っています。
よく使う設定は、この画像の通りです。「レンダリングインテント」を「知覚」にすることでPhotoshopのCMYK化に近くなっています。

国内印刷所の場合は、一般的に「Japan color 2001 Coated」が用いられています。
別途指定を頂いた場合は変更させていただきますが、この設定でCMYK変換したイラストで何かしらのリテイクを頂いたことはありません。

i-mixsさんがAffinity Photoに乗り換えた理由とは?

i-mixsさんが最初にAffinity Photoを活用したイラスト
(C)i-mixs / トミーウォーカー

ところで、なぜAffinity Photoに乗り換えたのですか?

i-mixsさん

実は利用しているPhotoshopがCS6で、Windows10では正式対応していないこともあり、今後のアップデートでCS6の利用がどうなるか不安があったのです。
実際に乗り換えた後も、インターフェイスが微妙に異なるせいで慣れが必要だったぐらいで、特に乗り換えのトラブル等もありませんでした。

PhotoshopのリサンプルやCMYKへの変換機能は、元々印刷を前提にしてあっただけに正確性や信頼性も高かっただろうと思います。
Affinity Photoへ乗り換えた後も、不具合やリテイクがなかったということは、アプリとしての精度も十分基準を満たしているということになりそうです。

i-mixsさんが実際にAffinity Photoで変換している作品

Affinity Photo i-mixs
(C)i-mixs / ホログラム・ワークス株式会社

まず、この作品がi-mixsさんからお借りしてきた作例(完成品)です。

前項にあった縮小&リサンプルのところから見ていきましょう。
細かく見ていただけるようにするため、画像をクリックすると拡大画像でご覧いただけます。

Affinity Photo 拡大
(C)i-mixs / ホログラム・ワークス株式会社

左がAffinity Photoによる縮小、Lanczos 3分離可能です。
右がPhotoshopの同等処理です。
素人目には違いはわかりません。

Affinity Photo CMYK
(C)i-mixs / ホログラム・ワークス株式会社

こちらはCMYKへの変換処理。
左がAffinity Photo上で変換したもの、
右はPhotoshopで変換したものです。
やはり違いは分かりません。

確かに、これなら十分置き換え可能だと言えると思います。

Affinity Photoに乗り換えて良かったこと

Affinity Photoに乗り換えてから、逆に乗り換えて良かった、と思うことはありましたか?

i-mixsさん

初めに乗り換えたり余裕につながる安心感でしょうか。
次に、買い切りのアプリで機能的にはほとんどPhotoshopと変わりがないという点です。1.9で更に機能も追加されましたし。

なるほど、ありがとうございます。
Affinity Photoを主に変換の用途でご利用なさっていますが、他の利用はされていますか?

i-mixsさん

写真のレタッチ機能(インペインティングブラシツール)を個人的に用いることはありますが、基本的に仕事では背景は手描きのため加工目的は殆どありません。
ただ今回1.9へのバージョンアップもされフィルタも追加されましたので、描く内容によっては活用したいとは考えています。

Affinity Designerでイラストを描けるのか?

i-mixsさんのイラスト
(C)i-mixs

Affinity Designerの購入もご検討中とのこと。
Affinity Designerを追加で購入しようと思った背景、今後どういう活用を期待しているかをお聞かせ頂けると嬉しいです。

i-mixsさん

これはイラストレーターとしての活動以外の面となってしまいますが、別で関係しているNPO法人様のお手伝いをする機会に少しIllustratorを触ることがあります。
ただ、私自身Illustratorには不慣れということもあり、お役にたつためにもAffinity Designerで少し技術を磨きたいと考えた次第です。
金額的にも導入しやすいですし。

なるほど。
これまで愛用しておられるCLIP STUDIO PAINTは、Adobe Illustratorとは置き換えられない良さがあると思うのですが、やはりAffinity Designerもその辺は無理っぽそうですか?

i-mixsさん

CLIP STUDIO PAINTはベクターレイヤーも扱えますが、基本的にはペンディングソフトですし、個人が作られたブラシや素材なども充実しています。

また私の場合は、イラストは強弱のついた線で線画を描いてから着色するという方法をとっていますが、Ahinity Designerでは液晶ペンタブレットを用いて線画を描く際の手ブレ補正機能が無いため、筆圧調整ができても望むラインで描くことができません。

筆のような塗り方ならまだ良いのですが、細かな長いタッチを生かしたストロークはできないですね。。

その辺は今後の改良が期待される部分になるかも知れませんね。
実際、iPad版も人気化しているので、Apple Pencilなどとの展開によっては、今後この方面への展開も期待できそうな気がします。

ただ正直、セルシスさんのCLIP STUDIO PAINTは非常に強力で優秀なアプリです。
Affinityとはまた異なる方向性のアプリなので、今後も多くの作家さんを支えていくことになるだろうと思います。

2021.2.15 追記

記事公開後、「Affinityにも手ブレ補正機能は付いている」という読者の方のご指摘がありました。
確かめてみると、確かに「スタピライザー」という名称でその機能がついていました。

ただ、CLIP STUDIO PAINTやProcreateといった描画専門のアプリに搭載されている手ブレ補正機能とは似て非なるもの、という印象があるようで、僕が調べた限りだと、キャラクターデザインを専門にする複数の方が、そのような感想をブログやTwitterなどに書き込んでいました。
i-mixsさんからも追加でコメントが届き、「細かな調整がやはりしづらくて、私の線画には向いていないと感じました。特にスタビライザーを有効にすると、線の入り抜きがうまくできません。私の場合、特に髪の毛などで細く長いラインを描く機会が多いので、感覚としての使い方はやはり大事のようです」とのことでした。

デザインは感覚を大事にする部分が多く、道具のほんのちょっとしたところがポイントになったり、ならなかったり。
Serifさんが、そういう声にも耳を傾けていき、いずれその辺もカバーできるアプリに仕上がってくれたら最高ですね。

Affinity Photoが支えるi-mixsさんの今後の活動とは?

i-mixsさん

現在フリーのイラストレーターとして活動しております。
ゲーム系のキャラクターイラストを多く描かせていただいておりますが、 最近は企業様のDMや暑中見舞い等のイラスト、電子書籍のイラスト、カードゲームイラスト等、幅広く描かせていただいており、一般向けでジャンル問わず幅広く描かせていただいております。

絵柄的に女性のイラストを依頼いただいて描かせていただくことが多いですが、直近の代表作にもありますように、女性だけでなくヒーローやクリーチャーなど幅広く描かせていただいております。

今後も媒体問わず幅広く私自身を生かしたイラストを描かせていただきたいので、イラストが必要な機会がございましたら、Twitterや私のホームページ経由でお話をいただけましたら幸いです。

イラストレーターのお仕事も、クライアントの要望に応じた仕様で制作したものを正しく納品するという点では、他の職業となんら変わるところがありません。
いくら素晴らしい作品が仕上がっても、ポスター用のイラストを72dpiで納品したって意味がないわけで、やはりしっかりと目的に合わせた仕様で納品してこそのプロの仕事だと思います。確かな納品は、そのクリエイターさんの信頼性に直結します。

i-mixsさんは、その最も重要な部分についてAffinity Photoを活用しており、従来のPhotoshopと同等の結果を出せることを確認しています。
大事な納品というプロセスに関われるだけの性能を有していることが、今回のインタビューで確認できました。

またi-mixsさんが仰っていた通り、2021年2月のアップデートでバージョンが1.9に上がりました。
Affinity Photo 1.9では全体的にパフォーマンスが底上げされたほか、パスに合わせたテキスト配置が可能になったり、非破壊のぼかしレイヤーが追加できたり、ある画像をキャンバスいっぱいに複製して並べたり、リキッドレイヤー……いくつかの新機能が追加されています。
使い方によっては、イラストの仕上げ部分での活用、装飾的な作業でも使えるようになるかもしれませんね。

i-mixsさん、今回は詳しいお話をありがとうございました。

i-mixsさんのページはこちらです。


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