USBメモリは長期保存に向かない。

未改修

誰かに直接受け渡したいデータを入れたりするときや、サブパソコンにファイルを移したいときなど、USBメモリはとても便利です。
最近は値段も安く、8GBくらいなら600円700円くらい出せば十分買える価格帯です。
取り扱いもカンタンで、USBポートに挿して、目当てのファイルをドラッグしてやれば、あっという間に保存完了です。

そんな便利なUSBメモリですが、実は長期保存には向いていない媒体です。
放置しておくと、データが緩やかに消尽していくのです。
今回はその仕組みについてご紹介してみたいと思います。

 

データが保存される仕組み

コンピュータの世界には、データを保存するのに大きく2つのカテゴリが存在します。

ひとつはハードディスクやDVDディスクといったもの。
これらは保存容量が大きく、読んだり書いたりするスピードが遅く、コストが安いという特徴があります。
また、パソコンの電源を切っても保存されたデータが消えることがないのも特徴です。

もうひとつはメモリと呼ばれるもの。
こちらは保存容量が少なく、読んだり書いたりするスピードが速く、コストが高いという特徴があります。
また、パソコンの電源を切るとデータは消えてしまいます。

USBメモリは、このうちの「メモリ」と同じ仕組みのものなのですが、電源を切ってもデータが消えないような処置を施したものです。
スマホやタブレットにもメモリが使われるので、世界的な大量生産の結果単価が落ちてきて、一昔前みたいな価格ではなくなってきたのも普及の背景にあると思います。
保存容量は大きめ、読んだり書いたりするスピードは速く、コストも比較的安いと言えます。
ちなみに最近流行りのSSDも、このUSBメモリと同じ作りで、USBメモリ、SSD、SDカードなどのことを総じてFlashメモリと呼んでいます。

 

それではFlashメモリはデータはどうやって保存されるのでしょうか。
まず、以下にイメージ図を見ながら順を追って説明していきましょう。

 

これはデスクトップパソコン用のメモリですが、USBメモリもケースを開けると同じような中身です。
白い枠線で囲った黒色のチップ。これがメモリの本体です。

この写真のPC用メモリでは、8つのチップが取り付けられています。
USBメモリはそんなにスペースがないので、もっと容量の大きいチップを1枚で搭載しています。

 

これは断面図です。
横から見た感じ。

基盤は、上の写真で見ると緑色の部分です。
基盤の上に乗っかっているのがメモリチップです。

 

これは書き込みの時の様子です。
書き込みはチップのコントロールゲート(制御層)から電圧をかけます。
+の電圧をかけるため、−の電子が吸い寄せられて、フローティングゲート内(灰色の層)に集められます。

書き込みが終わると電圧は切れるのですが、トンネル酸化膜に遮られて戻ることができません。
上にも絶縁膜があるので、結局データは上と下から阻まれて、そこに浮遊しつづける事になります。

これがPCメモリとUSBメモリの違いで、トンネル酸化膜は電力を失っても絶縁を続けます。
なので、USBメモリをパソコンから引っこ抜いた後も、データは保持されたまま消えないんですね。

 

今度は消去時です。
基盤側に対して電圧をかけると、−の電子は吸い寄せられ、トンネル酸化膜を越えて外に出られます。
これでフローティングゲートに閉じこめられた電子が空っぽになるので、データが消去されたことになるわけです。

 

これはデータの読み出しの際の挙動です。
「ソース」から「ドレイン」に向かって電流が流れるのですが、もしフローティングゲート内に電子が溜まっている場合、途中で抵抗を受けます。結果的にドレインに到着できる電流が減ってしまうんですね。
これを検知して、「あ、データが入っている!」みたいに判定される仕組みです。

−電子が入っている状態を「0」、空っぽの状態を「1」と判断して、コンピュータが理解できる数字の羅列「01001010001111……」(2進数と言います)に置き換えられ、データを読み込んでいくというのが基本的な仕組みです。

 

ミソは「トンネル酸化膜」です。
トンネル酸化膜があると、電力を失ってもフローティングゲート内に漂う−電子は脱出することができません。
これにより、データを保存することができるようになっています。

ただ、USBメモリをパソコンに挿していると、始終ずっと電力が供給され、書いたり消したり……その度にトンネル酸化膜は突き破られ、徐々に徐々に、劣化し続けています。
やがて限界に達すると、トンネル酸化膜としての役割を果たせなくなり、終わり……これがUSBメモリ(SSDも含む)の寿命ということになります。
はっきりとした寿命が来ていなくても、使い込んだUSBメモリだとトンネル酸化膜も劣化しているため、抜けていく−電子を防ぎ切れず、結果的に歯抜けの状態になり、「ファイルが壊れています」のようなエラーメッセージが表示されるようなことになってしまうわけです。

さらに、電力を失った状態で長時間置いてあると、少しずつ−電子は抜けていきます。蒸発といいます。
つまりパソコンから引き抜いてどこかに保管してあると、自然損耗でデータが抜けていくわけです。
乾電池も買っただけで何年も置きっ放しにしておくと、いざというとき使えなくなりますが、あれと同じ感じです。
一説によると環境温度によって進行のスピードがあるといいますが、いずれにせよリスクがあるということです。

 

ハードディスクは、長期保存するならパソコンから取り出して静置保存するのが一番です。
モーターが劣化するのを避けることが一番だからです。

しかし、USBメモリやSSDの場合、電力がなくった状況下だと劣化スピードが速いようです。
頻繁に接続させておいた方が良いようですが、そうすれば逆にトンネル酸化膜が劣化するという……そんなわけで、USBメモリは長期保存に向いていないのです。

 

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